映画「こんにちは、母さん」
2023年9月8日、映画『こんにちは、母さん』を観る。
2023年9月1日公開。9月13日で満92歳を迎え、これが監督作90本目という山田洋次監督の最新作。ヒロインは、吉永小百合。『男はつらいよ柴又慕情』(1972)をはじめ、『母べえ』(2008)、『おとうと』(2010)、『母と暮せば』(2015)など、約50年間に渡って数々の山田監督作品に出演する日本映画の国民的大女優は、本作で映画出演123本目だそうだ。下町に暮らす母・福江を演じる。
福江の一人息子・昭夫を演じるのは、昨年2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でも好演した人気俳優・大泉洋。山田監督映画への出演、吉永小百合との共演はともに初めてだという。原作は、劇作家・永井愛の同名の戯曲、2001年と2004年に新国立劇場で上演された。2007年5月26日~6月16日、NHK総合テレビ「土曜ドラマ」(主演:加藤治子、共演:平田満)でも放送されている。今回の映画化の脚色は、山田監督と朝原雄三。
舞台は東京・向島。隅田川沿いの下町。主人公は、亡夫の後を継いで一人で足袋店を営む福江(吉永小百合)。一人息子で大会社の人事部長として日々神経をすり減らす神崎昭夫(大泉洋)に、学生時代からの親友で同期入社の木部(宮藤官九郎)が、会社からリストラされそうになってからんくる。家庭では妻と別居し離婚問題、大学生になった娘の舞(永野芽郁)のわがままに頭を悩ませる。
ある日、昭夫は久しぶりに母・福江(吉永小百合)が暮らす東京下町の実家を訪れる。
しかし、迎えてくれた母の様子が、おかしいことに気づく。いつも割烹着を着ていたはずの母親が、髪を染めたりして若作り、艶やかな装いでいきいきと暮らしている様子。福江はホームレスの支援活動をしていて、仲間の牧師・荻生(寺尾聰)に恋愛感情を抱いていることを知り、昭夫は戸惑ってしまう。娘は、大学も母も嫌って家出し、福江のところに転がり込んできた。
ほかの共演者は、昭夫の部下に加藤ローサ、ホームレスのイノさん役の田中泯(みん)、福江のボランティア仲間のタレントYOUや枝元萌ら。
久々の実家にも自分の居場所がなくなってしまう昭夫。下町の住民たちの温かさや、今までとは違う母との出会いを通し、次第に見失っていた大事なことに気付かされてゆく。
やがて福江と昭夫に、思いがけない結末がやって来る。そしてエンディングでは、「母と息子」が一緒に新しい生活を始めることになるのであった。
★ ★ ★
吉永小百合の乙女のようなかわいらしい演技を通じて、老いらくの恋が描かれている。まるで「寅さん」のような実らぬ恋。それは決してベタベタとしたものではなく、心に秘めたまま。プラトニックで安易に好きだと口にせず、そのせつなさがこの映画の恋愛を美しく、深いものにしている。
いかにも軽い感じの宮藤官九郎は、リストラ寸前の社員の木部役を演じる。木部のキャラクターはダメ男で、しばしばコミカルな要素を持ちながらも、そのリストラに困り抜いた昭夫は、彼を見放すことなく現実の世界では信じられないほどの友情を見せる。会社のリストラという重くて生々しさは、この映画のぬくもりや笑いと感動で打ち消された。
福江が、昭夫の子どもの頃のことを語るシーンがある。親子の役作りのため吉永は大泉の実際の子ども時代の写真を借りて、イメージを膨らませたという。鍵もかけずに近所の人たちが勝手に上がってきて茶の間でお茶を飲むという下町の、また古き良き時代への郷愁が見る人に爽やかに心を和ませ、温かい気持ちにさせる。
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