日産カルロス・ゴーン事件
2020年6月18日、単行本『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』(朝日新聞取材班、幻冬舎)を読み終えた。
コロナ禍の最中の5月13日、第1刷が発売された本書の”帯”には、次のようなセンセーショナルな活字が浮かぶ。
=========================
《 世界中が驚愕した前代未聞のスキャンダルの全貌 》
孤独、猜疑心、金への異常な執着
カリスマ経営者はなぜ「強欲な独裁者」と化し、
日産と日本の司法を食い物にしたのか?
=========================
《 すべて調べ尽くしたのは本書だけ! 》
・検察はなぜゴーン逮捕に踏み切ったのか?
・ゴーン追放は「クーデター」だったのか?
・仏大統領マクロンvs.ゴーン。どんな確執があったのか?
・家庭の問題。孤独な青年時代。ゴーンの生い立ちとは?
・ゴーンによる恐怖政治と会社「私物化」の実態とは?
電撃逮捕の世界的スクープを放った
朝日新聞ならではの圧倒的取材力を駆使。
迫力の調査報道ノンフィクション。
=========================
「週刊朝日」2020年6月19日号にも、「墜ちたカリスマ カルロス・ゴーン劇場の“全真相”」というタイトルで、本書の朝日新聞取材班の一人が執筆した記事が掲載された。
日産自動車は5月末、最終赤字が6712億円に上ると発表した。この赤字額は“カリスマ”カルロス・ゴーンが仏ルノーから乗り込んできた20年前の6843億円に匹敵する。日産を舞台にしたゴーン劇場とはいったい、何だったのか? 朝日新聞取材班が迫った深層を明かす。
2018月11月19日、日産のゴーン会長とゴーンの腹心・ケリー代表取締役が乗ったプライベートジェットが、夕暮れの羽田空港に降り立った。同時に2人は、周到に準備していた東京地検に逮捕された。
「日産自動車のゴーン会長を金融商品取引法違反容疑で東京地検特捜部が逮捕へ」の大スクープ。
朝日新聞司法クラブの記者たちの、数カ月にわたる取材の結果だった。事情を知らない日本中の、いや世界中の人々が驚愕した。まるでサスペンスドラマだった。
2018年秋、フランスのルノーが日産自動車を吸収するという経営統合の動きが進んでいた。マクロン大統領は国内製造業の復活を計るため、ルノーと日産のトップを兼ねるゴーンに、退任をちらつかせて統合を進めるように迫っていた。ルノーは日産に比べて規模が小さく、技術力も劣る。電気自動車など先端技術も持つ巨大な日産を吸収することで、ルノーの衰退を食い止めたかった。
フランスは第2次大戦後、政府が主要企業の株式を持ち、経営トップを送り込むという独特の経済体制をとっている。仏政府は、もともとルノーの株を15%保有していた。ルノーは、業績悪化による倒産の危機に直面した日産を救い、2006年5月から日産株の44%を所有した。しかし再建後は日産が業績を伸ばす一方で、ルノーは低迷。日産は高額な配当でルノーの業績を上げるなど、経営を支援してきた。悪く言えば、日産の巨額の利益がルノーに吸い取られるという構図だった。のちに日産は三菱自動車の34%の株式を取得、ルノー・日産・三菱の連合(アライアンス)は、2017年上半期の自動車販売台数は526万8千台で、トヨタ・グループやフォルクスワーゲン・グループを抑えて、初の世界首位に立った。
ルノー、日産、三菱自動車のエンブレム 出典:ウキメディア・コモンズ
ルノー・日産・三菱アライアンスのロゴ Renault-Nissan-Mitsubishi Alliance logo 出典:ウキメディア・コモンズ
フランスは、2014年に政府権限を強める「フロランジュ法」を制定、議決権を政府保有株式の2倍にした。これにより事実上、ルノーの経営に強い発言権と拒否権を持つようになっていた。それまでゴーンは、ルノーと日産の双方の利害のバランスをとり、その地位を長く保ってきた。生え抜きの日産幹部たちにとって、ゴーンは仏政府圧力の「防波堤」になってくれるという強い信頼があった。ところがゴーンはマクロンに従い、2018年9月の取締役会でルノーとの経営統合の話を切り出した。ルノー側に軸足を移したゴーンに、日産幹部たちはその変身ぶりに信頼をなくす。議決権を引き上げたフランス政府による経営介入によって、日産は経営の自主性を失いかねない危機に面した。
同じころに別の問題が持ち上がっていた。ゴーンの肝いりで、日産傘下に 「ジーア・キャピタル」という投資会社が、2010年に設立された。しばらくして、この会社の活動実態に不審を抱く者たちが社内に現れた。監査役室でたびたび調査が行われたが、このペーパーカンパニーは怪しげだが、実態がよくわからなかった。そんなとき、今津監査役に内部告発があった。監査役室の動きを知った法務担当のマーレシア出身英国人のハリ・ナダ専務が2017年暮れ、これ以上ゴーンの不正に付き合わされるのがゴメンだと、ジーア社の実態とゴーンの不正を暴露した。
ジーア社が投資すべき資金は、ゴーンの住宅費として2700万ドルが流用されていた。さらにゴーンの姉に、活動実績もないのにコンサルティング報酬75万ドルを支払っていた。また、本来開示しなければならないゴーンの役員報酬を退任後に受領するように装い、90億円以上も隠蔽していた・・・等など。衝撃的な内容だった。
ナダ専務から相談された川口専務は驚愕し、さっそく密かに検察OBの弁護士に相談。検察OB弁護士やナダが懇意にしている米国の法律事務所の弁護士たちの協力を得て、ゴーンの不正行為を詳細に調べていった。そして、この問題は社内では解決できない程の重大事件だとして、東京地検特捜部に持ち込まれたのだった。
写真は、日産自動車グローバル本社(横浜市)2009 ウキメディア・コモンズから転載。
ちょうどその頃、日本に「司法取引制度」が新しく導入された。検察は、大阪地検特捜部の証拠改ざん事件(障害者郵便制度の悪用事件を担当していた検事が、証拠物のフロッピーディスクを改ざんした)で、検察の威信は地に落ちていた。東京地検の森本特捜部長は、不正の捜査に新しい時代に沿った手法で検察の立て直しを図ろうと、「特捜部の復権」が期待されていた。
日産からゴーンの不正が持ち込まれて4カ月後の2018年10月、不正に関与したナダ専務、大沼秘書室長と検察は、司法取引に向けて協議を始めた。司法取引は、犯罪に関与していても、証拠の提出や供述の協力によって、罪を問わないことを保証してもらう制度。ナダと大沼は、ゴーンと共謀したジーア社の不正や、役員報酬欄を虚偽記載した金融商品取引法違反を認め、多くの証拠を検察側に提出した。検察との協議が進んでいた2018年10月、今津がこれらの証拠をもとに西川(さいかわ)社長兼CEO(最高経営責任者)にゴーンの不正を説明した。ゴーンの側近だった西川には、有無を言わせぬようお膳立てが整った最後の段階になって、ようやく説明されたのだった。
カルロス・ゴーン 2008年1月25日:World Economic Forum Annual Meeting Davos 2008 ウィキメディア・コモンズより転載。
以上が、朝日新聞取材班がつかんだ事件の「真相」だという。ゴーンが後に主張するような「日産の陰謀」とは違い、ゴーンを日産から追放するために不正が捏造されたのではなく、不正があったので追放されたのだった。朝日新聞社会部の司法クラブ記者たちが、東京地検が司法取引で大事件を捜査していることを感づいたのは、西川社長が知る数ヶ月も前のことだった。それから取材を重ねてたどり着いた先は、世界の大物「ゴーン」だったのだ。
逮捕されたゴーンは拘置所に留置され、取り調べが続く。やがて、ゴーンの中東にいる友人らを使って「サウジアラビアルート」と「オマーンルート」と呼ばれる特別背任の構図も明らかになった。ゴーンの指示で「中東日産」から友人に送金した金で、ゴーン自身の私的な信用保証や還流を得ていた。ゴーンは保釈を要求をするも認められず、弘中・高野弁護士らの尽力でやっと厳しい監視の上で、異例の釈放が行われた。保釈金は15億円だった。保釈後、日産への忠誠や無実を訴えた。弁護人を付けない取り調べ、テロリストを扱うような人権無視の司法制度、「人質司法」と呼ばれる長期拘留を批判した。しかし保釈中の2019年12月29日、監視されていたはずのゴーンは、驚きの手口で関西空港から出身地のレバノンに逃亡する。またもやサスペンスドラマのように。
レバノンは、犯罪人引渡しに応じないため、再逮捕・裁判は無理だろう。ゴーンはレバノンで、記者会見を開いた。世界中のマスコミが殺到した中、ゴーンの「独演会」だった。日産と検察の陰謀や日本政府の介入という「もう一つのストーリー」をゴーンは主張した。そして自分は無実で、日本の司法制度を批判した。しかしフランスでも、ゴーンのベルサイユ宮殿での結婚パーティが、ルノーの会社資産の乱用だとして捜査しており、多くのマスコミは冷ややかだった。この記者会見とは別に、朝日新聞はゴーンの独占インタビューを行っている。
2020年4月頃には共犯者として起訴されたケリー、そして法人の日産に対し、裁判の初公判が開かれる予定だった。新型コロナウイルスの影響もあり、遅れている。主役のいない裁判で、どこまで真相は明らかになるのだろうか。
★ ★ ★
このドキュメンタリーは、朝日新聞のスクープや手柄話が強調されているが、事件が公になる前から内密に取材し、詳細に調査されているのはすごい。しかし、カリスマ経営者のゴーンがなぜそういう不正を犯したのか、その原因となる彼の生い立ちや切っ掛けまでも、もっと掘り下げて欲しかった。また海外では、彼の功罪がどう評価されているのかも詳しく知りたかった。
ゴーンは、ルノー役員たちからは良く思われてないようなことを、本書に書いてあった。やはりフランス人にも、本音と建て前があるのだろうか。ゴーンは日産の経営を建て直して、ルノーよりも技術力、生産力、販売台数で遙かに上回る昔の日産に蘇らせた。ルノーの子会社となった日産は、ルノーの利益の元手にもなった。そういった事に、ルノーの役員たちは敬意を表しながら、どかかで彼へのやっかみや胡散臭さを感づいていたのだろうか。生え抜きの日産幹部は、ゴーンの経営手法に畏敬の念を抱き、更にはルノーからの経営介入の防波堤になってくれていた。そういったことが、日産から信頼され、長くトップに居座り続けたのだろう。
公私混同を始めたのは、どういう切っ掛けだったのか。莫大な報酬への執着、その開示を免れるようにしたのは何故か。別の情報では、ブラジルの大統領を目指すための資金作りではなかったのか、という話もある。本書では、複数の女性と不倫、長年連れ添った妻リタと2015年離婚。そして不倫相手だったキャロルと2016年結婚。ベルサイユ宮殿を使って結婚パーティと、セレブのような振る舞い。熟年再婚からおかしくなった、妻の影響なのか急に派手になっていったという。のちにジーア社というペーパーカンパニーを利用して、けじめのない私的な金遣いが次々に確認された。湯水のように金を使い、贅沢する様子はルイ16世とマリーアントワネットを彷彿とさせるとも書いてある。また、ゴーンが日産を建て直したときの「リバイバルプラン」のようには、働かなくなったという。しかしその地位を手放さない。
2007年のリーマンショックの時の慌てようは、目に余ったという。経営目標の未達成は、No 2に責任を取らせ、自らは取らない。部下からの異論や進言を聞かなくなった。気に入らない社員は、飛ばされ。ゴーンに近かった「ゴーン・チルドレン」たちも、彼と少しずつ距離を置くようになる。しかし、それでもズルズルとゴーンをトップに君臨させ続けた。
本書の第2部「独裁の系譜」では、日産の体質や企業風土がどういうものか、日産コンツェルンの創業者・鮎川義介から始まる日産自動車の社史に、多くのページを割いている。そのなかで全自動車日産分会・益田哲夫会長、興銀出身の川俣克二社長、そして日産労連の塩路一郎会長らの名前が出てくる。塩路一郎については、筆者もよく耳にした。「労働貴族」とか「塩路天皇」と呼ばれた労働組合の独裁者で、日産の経営にも多く口出した。当時は、労働運動のトップにこんな人がいるのかと、違和感を持ったことを思い出す。こういった独裁者が育った風土が、日産の体質なのだろうか。一方の勝ち組のトヨタやホンダは、どこか一本軸が通って、それでまとまっている気がするが、日産は優秀な人材は多いが、どこか軸足がない。
両親はレバノン人で、ゴーンはブラジルで誕生した。幼少期をリオデジャネイロで過ごすが、6歳の時にレバノンの首都ベイルートに母と姉とで移り住む。レバノンに移住した理由は、父親が殺人を犯したという可能性を否定できない。ベイルートでは、母親の影響でイエズス会に入った。ここは多国籍企業ような色々な人種と多文化性、多様性があったという。イエズス会系の名門校「コレージュ・ノートルダム」で小学校から高校まで10年間学ぶ。家では幼少期に身につけたポルトガル語。学校では3ヶ国語、公用語がアラビア語、フランス語と英語が必須教科だった。ゴーンの国際性は、このときに養われたのだろう。勉強はよく出来、ボーイスカウトにも入り、学校ではリーダー的な存在だったらしい。
17歳で単身フランスに渡り、名門校の「パリ国立高等鉱業学校」を卒業、大手タイヤメーカーのミシュランに入社し18年間在籍した。ミシュランでの業績が評価され、ルノーの上席副社長としてスカウトされ、同社の再建にも貢献した。しかし、強欲で公私混同や不正を犯したりするのは、少年期や青年期に何かあったのだろうか。本書では、はっきり分からないが、父親の存在が影を落とし、妻キャロルの影響だろうか。
ルノー会長兼CEO(2005年~2019年1月)カルロス・ゴーン 2009年11月8日 - India Economic Summit 2009 ウィキメディア・コモンズ より転載。
ルノーのルイ・シュバイツァー会長兼CEOは、フランスの名門家の出、エリート官僚だった。筆者は、フランスの植民地だったレバノン出身のゴーンは、保守的なフランス企業のトップにはなれないと思っていた。しかしシュバツァーは、彼の優秀さと多様性、日産での実績を買ってルノーの後継会長にもした。日産にやってきたゴーンの「コミットメント」(必達目標)という言葉は、当時は目新しかったことを思い出す。ゴーン自ら「コミットメント」を掲げ、部下にも「コミットメント」を出させ、自ら達成できなければ日産を辞めるとも言った。こんな経営者は、日本にはいなかった。日本の経営者は、彼の経営手法を見習おうとし、彼は経営の「カリスマ」になっていった。経済の長期低迷に苦しむ日本の大企業に、経営のグローバルスタンダードはこういうものかと、見せつけたのだった。
ルノー元会長兼CEO(1992年~2005年)ルイ・シュバイツァー 出典:ウキメディア・コモンズ
ルイ・シュバイツァーは、ノーベル賞のアルベルト・シュバイツァー博士の従孫(いとこの孫)、哲学者サルトルの親戚にあたる。
ゴーンの腹心と思われた西川社長兼CEOは、逮捕1ヶ月前に知らされたという。ゴーンが逮捕された後は、社長としてマスコミの全面に立って、社内調査の結果を報告し、ゴーン統治の精算を訴えた。事件を起こした日産の経営責任を取るべき、との声も多かったが辞めなかった。真相を明らかにして、ガバナンス(企業統治)と日産再建の道筋を付けたかったのだ。西川が、どうやって日産の信頼を取り戻し経営を建て直すのか、筆者の注目していた。しかし彼は意図的でなかったと釈明したが、自らの役員報酬の不正が見つかって、辞任せざるを得なくなった。
日産の社長兼CEO(2017年4月~2019年9月)西川廣人 出典:ウキメディア・コモンズ
ゴーンが2005年、ルノーと日産のCEOを兼ねた時から「統治不全」は始まっていたともいう。薄情で強欲な独裁者、会社の私物化、まるで中小企業のオーナー社長のように。最後に朝日新聞の単独インタビューで、ゴーンの主張を知ることができる。彼の主張は、自身が強欲でないという証拠に、GMから報酬2倍のCEOのオファーを受けたが断ったこと。多くの学者が、自分を分析して独裁者とは言ってないこと。強欲というのは捏造されたイメージだ。日本人から17年間、「彼はいいやつだった」と言われてきた。なのに検察や西川や豊田(経産省出身の社外取締役)が、「彼は良くないやつだ」と言い出した。日本の司法制度には問題がある。司法制度が公平なら、逃亡しなかったとも答えた。
ゴーンは、ICPO(国際警察機構)から手配されている。今後も米国、フランス、ブラジル等に渡航することは出来ないだろう。レバノンという拘置所に閉じ込められているのは、皮肉なものだ。しかし、ゴーン逃亡を許した責任は誰が取るのだろうか、誰の責任で保釈中のゴーンを監視すべきだったのだろうか。保釈を要求した弁護士か、保釈を決定した裁判所か、保釈に反対した検察か。おそらく誰も責任を取らないと思うが、今後は海外のように保釈中にGPSを装着するなどの方策がとられるべきであろう。
2019年1月、ゴーン後任のルノー会長に就任したジャン=ドミニク・スナール 出典:ウキメディア・コモンズ
今回の赤字額は、ゴーンが来る直前の赤字額に匹敵するという。11年ぶりの赤字の原因はいろいろあると思うが、ゴーン時代の無理な拡大路線が影響したとか、新型コロナが追い打ちをかけたとも言われている。そんな単純なことではないと思う。V字回復の「リバイバルプラン」では、日産村山工場など5工場閉鎖、2万千人の人員削減、傘下の部品メーカの保有株を売却、調達先を半分に絞り込み大量発注する代わりに値下げを求めた。日産というブランド価値を今後も維持していくためには、ゴンの負の遺産を払拭し、こういったリストラが新しい経営陣がどこまで出来るのだろうか。
5月下旬のロイター通信によると、フランスのルメール経済・財務相が「ルノーは早期支援がないと消滅の可能性がある」と言及した。支援の条件は「国内雇用を最大限維持せよ」、「環境負荷の少ない車を開発せよ」だそうだ。つまりこれらが出来ないと、ルノーは消滅すると、大株主の仏政府が要請している。フランスでは労働者の権利が強く生産性が低いため、市場競争力が低いとされている、また日産のように独自で電気自動車を開発する能力は高くない。ルノーも厳しい局面に置かれている。日産からの支援が “頼みの綱” 、日産という組織を最大限に活用すること解決策だが、日産は今そんな余裕はない。
★ ★ ★
●三菱自動車、燃費試験の不正事件
2016年4月、三菱自動車工業は軽自動車の共同開発先の日産自動車の指摘により燃費試験の不正問題が発覚。燃費を実際よりも良く見せるため、国土交通省に虚偽のデータを提出していたことを明らかにした。対象車種は、「eKワゴン」「eKスペース」、日産ブランド「デイズ」「デイズルークス」。これらは即日、販売停止が決まった。
実際よりも、5〜15%程度良い燃費を算出しており、軽自動車の業界基準であるJC08モードで30km/L以上という水準に見せかけていた。 相川社長は、石井国土交通大臣への報告後の記者会見で改めて謝罪し、「会社の存続に関わる程の大きな事案」と述べた。高市総務大臣は、エコカー減税について「燃費が変わった場合は、自動車重量税や取得税の差額を納めて頂く」と述べている。さらに、軽自動車に限らず1991年以降に発売した三菱自動車の全て車種において、違法な方法で燃費試験をしていたことも明らかになった。
同年10月、日産自動車が三菱自動車の株式を34%保有する筆頭株主となり、ルノー・日産アライアンスの一員に加わった。12月、当時の日産会長兼社長のカルロス・ゴーンが会長に就任、CEOは三菱自動車の益子社長が継続した。
●日産、無資格者の検査問題
2017年9月6日、日産の約7年ぶりにフルモデルチェンジした新型「リーフ」の発表イベントが、幕張メッセの大ホールで開催された。世界各国から報道陣をはじめ、販売店や取引先など約5000人を招待するという豪華なイベントだった。しかも、イベントから2週間足らずの19日には、新型リーフの生産拠点の追浜工場(横須賀市)で、量産開始のオフライン式と世界生産累計1億5千万台達成を祝う式典が盛大に行われた。
そんなお祭り気分の最中に不祥事が発覚、社内は一転してお通夜のような雰囲気に包まれた。同年9月18日、国土交通省の抜き打ちの立ち入り検査によって、完成検査を無資格者が行っていたことが発覚したのだった。しかも一カ所に留まらず日産の6工場で常態的に行われていたのだ。この結果OEM供給を含む日本で販売した38車種116万台がリコールとなり、その後も各地の工場で同様の問題が発覚、日産の統治能力のなさが露呈した。
9月29日夜には緊急記者会見を行ったが、出席したのは部長クラス、経過説明とともに深々と頭を下げて謝罪した。他の自動車メーカーでは、経営にかかわるような不祥事が発覚した場合は、経営トップか、それに準ずる役員が説明するのが普通だ。トヨタ自動車もリコール問題がクローズアップした時、消極的だった豊田章男社長を説得して夜遅くに会見を行ったことがあった。ところが西川社長がやっと記者会見を開いたのは、部長クラスによる会見から3日後の10月2日だった。
またその後、スバルの群馬工場で同様の「無資格者による完成検査と捺印」が発覚。同社もトップが会見し謝罪、リコールとなった。これまで積み上げてきた、日本の自動車メーカーに対する品質や信頼感が揺らいでしまった。
燃費の改ざん問題は、軽自動車は業界ではJC08モードで、30km/Lというのが定着していた。燃費は、速度・加速、気温・湿度・天候、路面・坂道、エアコン等など様々な条件で変わる。例えば燃費30km/Lとカタログに書いてあっても、実際の燃費はその6~7割だ。消費者には、非常にわかりにくい。もっと実体に近い燃費の測定方法は、ないのだろうか。実態とかけ離れた燃費測定が、不正を生んでしまったとも言える。
また不正検査の問題は、無資格であっただけで品質には問題は無いという声も多い。完成検査は自動化しており、昔のような熟練者でなければ検査できないわけではない。国で決められたこの形式的な手順が、メーカーでは費用のみがかかる行為だとして軽視していたようだ。日産ではゴーンによるコストカットの行き過ぎで、現場が苦し紛れで起こしたという話もある。外国では、日本だけの不必要な、しかも通常監査される事もない規制を設けていて、それを変えようとしない事が問題だと批判しているマスコミさえもある。
三菱自動車、日産自動車も、もちろんコンプライアンス(法令遵守)の甘さやガバナンス(企業統治)の低さが、こういった不祥事を起こしてしまったが、カタログの燃費に対する実体と乖離(かいり)や完成検査制度の曖昧さが問題でもあることを記しておきたい。
本ブログの関連記事 映画「空飛ぶタイヤ」
http://otsukare-sama.cocolog-nifty.com/blog/2018/06/post-f7cd-1.html
« 新型コロナ2020.06 要請緩和 | トップページ | 新型コロナ2020.06 全面解除 »
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- すぐ死ぬんだから(2020.08.31)
- 女帝 小池百合子(2020.08.27)
- 日産カルロス・ゴーン事件(2020.06.26)
- 小説「火花」(2017.05.03)
- 夏目漱石の妻と阿川弘之の妻(2017.02.24)
カルロスゴーンよ。言葉を慎みたまえ。
投稿: ムスカ大佐 | 2021年12月 9日 (木) 19時32分