ミライon図書館
2020年2月15日(土)、昨年10月に開館した「ミライon図書館」に行く。
「ミライon(みらいおん)図書館」は、「長崎県立長崎図書館」と「大村市立図書館」の共同運営図書館。
「長崎県立長崎図書館」は、1912年(明治45年)に創設。1960年(昭和35年)に建て替えられた後、老朽化が進み年々増加する資料の保管の能力をはるかに超えたため、新たな建設が望まれていた。
長崎市にあった「長崎県立長崎図書館」を移転して、大村市の「大村市立図書館」や「大村市民会館」の敷地に県立・市立一体型の図書館施設「ミライon図書館」として2019年1月竣工、同年10月5日にオープンした。
都道府県と市町村が共同運営する図書館は、高知県の「オーテピア高知図書館」以来の全国では2例目だそうだ。九州の県立図書館としては、収蔵能力最多の202万冊を誇る。開館時の蔵書数は、約125万冊でうち開架図書は25万冊。
10:00頃入場。
建物は6階建だが、一般利用者の入館は4階まで。天井や書架には長崎県産の木材が使われていて、優しく温かみのある雰囲気。
1階は、こども室(児童書の書架4万冊、閲覧席101席)、多目的ホール(200名収容)、カフェ「cafe miraino」、「大村市歴史民俗資料館」など。
2階は、学習スペース(104席)、研修室(76名収容)、グループ学習室(6名×4室)など。
下の写真は、吹き抜けの3階から撮影。下半分は2階の学習スペース、上半分は1階のこども室。
3階は、一般資料の開架・閲覧スペース(一般書約21万冊、閲覧席231席)。
4階は、資料閲覧スペース(閲覧席116席)など。
石井筆子が愛用した「天使のピアノ」のレプリカが、1階のサブエントランスに設置されている。
エントランスの壁には、近代を拓いた大村の人々のパネル展示。
右から黒板勝美(教育)、荒木十畝(美術)、長岡半太郎(科学)、石井筆子(教育)、長岡安平(造園)、長与専斎(医学)、楠木正隆(政治)、渡辺清・昇(政治)。
1階に併設の「大村市歴史資料館」。
「大村市歴史資料館」は、大村藩や大村家関係の古文書等を保管・展示するため、1973年(昭和48)に開館。以後、大村に関する歴史資料の収集、調査、展示を行っている。所蔵資料は、1万数千点。
資料館は、「プロローグ展示」、「シアター」、「常設展示室」と「企画展示室」から構成されている。
「プロローグ展示」は、多くの人を引き寄せ賑わい作り出す資料館の入口。床には、大村湾を中心とした大村藩に相当するエリアの航空写真(写真なし)。
「シアター」では、デジタルコンテンツ「南蛮屏風図 天正遣欧少年使節」を映写。
戦国時代の長崎などでの南蛮貿易を描いた南蛮屏風をモチーフに、織田信長、豊臣秀吉や大村純忠などの歴史上の人物たちが登場する。コンテンツに触ったり、スマホを使って遊んだりと参加して楽しむことができるそうだ。
また、映画「遥かなる天正遣欧少年使節」を毎時00分と30分から、8分間上映。バチカンロケを行った天正遣欧少年使節のドラマ「MAGI-遣欧天正少年使節」(2019年公開、野村周平主演)のダイジェスト版のようだった。学芸員の話では、少年使節が実際にローマ教皇に謁見を行った「帝王の間」の撮影は、国内初だという。
「常設展示室」は、説明パネルや歴史資料のほか、ジオラマや映像、情報検索システムなどがある展示室。大村の歴史全体を楽しく知ることができる。
「企画展示室」では、「新収蔵品展」が1月11日(土)~2月24日(月)で開催中。
近年収集した坂本龍馬や桂小五郎から薩長同盟に尽力した大村藩士・渡辺昇にあてた手紙(渡辺清の交友関係を知る資料)、江戸時代に世界の人々を描いた「万国人物図」など初公開を含む展示。
11:30頃一旦退場して、館外で昼食。12:30過ぎに、再び入館。
13:30~15:10、館内の多目的ホールで郷土史講演会「ミュージアムの将来~社会の中のミュージアム」を聴講する。
・報告「大村市歴史資料館の整備について」 大村歴史資料館 館長 今村明 氏
・講演「ミュージアムの現在とこれから」 長崎県立美術館 館長 米田耕司 氏
主催は、大村史談会、大村歴史資料館。
15:30~学芸員による「大村市歴史資料館」の展示案内。
学芸員の話で「ミライon図書館」から徒歩5分の「プラットおおむら」に、別館の「大村市近代資料室」があるという。
「ミライon図書館」を退館して、アーケード街(旧長崎街道)の中心市街地複合ビル「プラットおおむら」の5階に行ってみる。16:30、「大村市近代資料室」に入場(入場料無料)。
明治から終戦後まで、近代大村の歩みを伝える新しい展示施設。
歩兵第46連隊や海軍航空隊、第21海軍航空廠と昭和17年の大村市誕生など、近代化の道を進んできた大村市の歴史的資料を展示。
16:45、退場。
★ ★ ★
●石井筆子について
石井筆子(1861~1944年)は、渡辺清の娘。清は幕末の坂本龍馬や木戸孝允と交流があった志士で、明治政府では福岡県令や元老院議官などの要職を歴任し、男爵に叙せられた。
筆子は、オランダやフランスに留学するなど優れた語学力を生かし、女性の教育と権利向上に貢献した。また、日本初の知的障害児社会福祉施設「滝乃川学園」(東京・国立市)の創立者・学園長の石井亮一と再婚、2代目学園長としても活躍した。
「天使のピアノ」は、現存する日本最古のアップライトピアノだそうだ。演奏者の目の前に位置する上前板に、2人の幼児を抱いた天使がデザインされている。筆子はこのピアノでクリスマスなどに演奏を披露したとされ、現在でも同学園で使われているという。
2007年には、石井筆子の生涯を描いた映画『筆子・その愛天使のピアノ』(常盤貴子主演)が製作・公開されている。
●大村市歴史資料館
以前の「大村市立図書館」に併設された資料館がどんなものだったか知らないが、新しい資料館は郷土史を知る上では非常に分かりやすく、楽しく歴史を学ぶことができ、素晴らしかった。
大村の歴史は、それぞれの時代の特徴的なポイントは、
・原始・古代:富ノ原の環濠集落遺跡、彼杵荘(そのぎのしょう)、仏教文化の隆盛、竹松遺跡。
・中世:大村氏の登場、戦国の世を生き抜いた大村氏、大村純忠と天正遣欧少年使節、キリシタン王国の時代。
・近世:大村藩260年間の歴史、隠れキリシタンと宗教政策、捕鯨で財をなした深澤義太夫、藩校の五教館、幕末を駆け抜けた大村藩士。
・近代:城下町から軍都大村へ。陸軍歩兵連隊、海軍航空隊、海軍航空工廠。
などがあげられる。
大村氏のはじまりは、大村家の系図では伊予国(愛媛県)から藤原純友の孫の直澄が、大村にやってきて大村と名乗ったと伝えられていた。昔読んだ郷土史や観光パンフレットには、そう書いてあった。どこか大村家の出自(しゅつじ)を権威づけるような系図は、捏造めいた感じがした。
しかし最近の研究では、大村家は平安時代の藤津荘(現在の佐賀県鹿島市)の原一族と考えられているという。資料館の説明パネルでは、原一族は藤津郡から彼杵郡へと勢力を伸ばし、大村と名乗って大村を本拠地に有馬氏と争ったと書いてあった。
●ミュージアムの将来
「ミライon図書館」の特徴は、閲覧や学習のスペースが多くとられていることだそうだ。その数はおよそ550席もあって、席ごとに(一部を除いて)専用の電源コンセントが目についた。パソコンを持ち込んで、勉強や仕事をするのにも便利。もちろんWi-Fiも完備。また1階のエントランスでは、お昼時になると飲食をしている人たちがいたのは驚いた。
午後からの「長崎県立美術館」の米田耕司館長の講演は、面白かった。ミュージアムは、「市民のリビングルーム」であるべきだと言う。忙しい日常の中で、ホッとする場である。例えばミュージアムに、食事ができるカフェが必要だと主張。これまでの第一世代、第二世代のミュージアムに対して、「第三世代の博物館像」を提唱されている。話を聞いて目からウロコが取れる思いがした。
例えば、第1世代は保存志向、第2世代は公開志向だったが、第3世代は参加・体験志向だという。これまでの閉鎖的で、難しくて、堅苦しい、暗いイメージは、最近あちこちのミュージアムを訪問した経験では、確かに変わって来つつあるのに気がつく。市民に参加してもらって、地域社会に開かれた、くつろげる自由なミュージアム。まさしく 「大村氏歴史資料館」や「ミライon図書館」もその将来を先取りした施設だった。ここでは、1階エントランスとカフェでは、食事が可能とパンフレットに書いてある。
「文化芸術基本法」は、文化芸術に関する基本法として2001年(平成13年)に制定された。国や地方自治体は、文化芸術の充実を図る責務が定めるられたという。その実現のために「果報は寝て待て」ではなく、「果報は練って待て」と講演で米田氏は言う。ミュージアムは、地域の振興、活性化を果たす役割を担っているのだ。
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