東京都美術館「大英博物館展」
2015年6月7日(日)、特別展「大英博物館展」が開催されている上野の東京都美術館に行く。
9時半、上野駅着。いつ来ても上野公園は人が多い。
東京都美術館では、2015年4月18日(土) ~ 6月28日(日)の会期で「大英博物館展」が開催されている。主催は、東京都美術館、大英博物館、朝日新聞、NHKなど。
●特別展「大英博物館展―100のモノが語る世界の歴史」
(The British Museum Exhibiton: A History of the World in 100 Objects.)
「人類の文化遺産の殿堂」として、世界中のあらゆる地域と時代から集められた大英博物館の収蔵品は、700万点を超えるという。今回の特別展は、その所蔵品の中から厳選された100の展示品を通じて、200万年前から現代に至る「人類の創造の歴史」をたどる。観覧料は、当日券1,600円。
大英博物館展図録(公式カタログ、2,400円)を購入。
観覧前は、いろいろな地域、時代のモノが、単にバラバラに並べられているのに過ぎないのか、それともどう体系化されて展示されているのか、興味があった。
しかし、200万年前の第1章「創造の芽生え」から現代の第8章「工業化と大量生産が変えた世界」までの8つのテーマに分け、各テーマは世界地図のパネルを使って展示品が紹介されていた。
・まず「プロローグ」の展示室に入ると、いきなり紀元前600年のミイラの棺(ひつぎ)が目に飛び込んできて、驚く。中のミイラは、棺には女と書いてあったが、近年CT検査をすると何故か男だったそうだ。
・第1番目の展示品は、200万~180万年前の「オルドヴァイ渓谷の礫(れき)石器」で、アフリカのタンザニアで発見された。大英博物館が所蔵する最古のモノ。 石を打ち欠いて加工成形した打製石器とは異なり、礫石器というのは自然のままの石。木の実や動物の骨を叩き割ったり、磨り潰したりした。展示品は、どうみてもただの石だが、人工的に擦り減った痕跡があり、人類の遺骸と砕かれた動物の骨のセットで見つかった状況から、これは原始人が使ったと石だと判断されている。
・石器時代の素朴なモノもあるが、王家の墓から発見されたという「ウルのスタンダード」のと呼ばれる用途不明の箱はすごい。紀元前2500年のメソポタミアの時代、このような緻密な工芸品があったのか。箱に描かれた戦争の場面、宴会の様子が、当時の文明を物語る。
・ローマ帝国の「ミトラス神像」は、ミトラス教の神が雄牛を殺している場面。神の衣装のリアルさと質感が、とても大理石の造形とは思えない。ミトラス教は、ローマ帝国の中で飛躍的に広まったが、やがてキリスト教に隆盛とともに消えて行った。歴史の表舞台に立てなかったミトラス教は、この「ミトラス神像」に歴史の記憶を残している。
・南米初の国家を造ったモチェ族の「モチェ文化の壺」は、若い兵士をかたどっている。モチェ族は残酷な民族だったそうだが、3~4頭身のこの人形型壺は、ユーモラスな顔立ちで、実にカワイイ。
・日本のモノは、葛飾北斎の「北斎漫画」や磁器で作られた「柿右衛門の象」などいくつかあった。こういうモノは、ヨーロッパ人には珍しくて面白かったに違いない。
・「アメリカの選挙バッジ」は、1860年代に大統領選挙のキャンペーンとして、肖像写真入りバッジが大量に作られた。他の消費財と同様に使い捨てにされたという皮肉か。「クレジットカード」も、現代のモノの一つとして展示は少し違和感があるが、貨幣・紙幣経済の歴史を見た後では納得できる。
・100番目のモノは、「ソーラーランプと充電器」。太陽電池とLEDランプは、低コストで大量生産できるが、電力がふんだんに使える先進国には不要だ。電力が普及していない貧しい国の夜の照明として、あるいはパソコンや携帯電話に利用され、彼らの暮らしを一変させた。現代文明の利器が、世界の貧困を救っているかと思うと、世界の歴史を語る最後にふさわしい。
日曜日ということもあって会場は非常に混雑していて、特に小さなモノは近くに寄ってじっくり見られるわけではなかった。背の低い子供たちには、ちょっとかわいそう。子供用に分かり易く解説したミニブック(600円)が、ショップで販売されていた。
輸送や展示スペースの都合もあると思うが、想像していたより小さなモノが多かった。会場は、撮影禁止だったので残念。
●レストラン「IVORY(アイボリー)」
12:15、予約してあった美術館内のレストランに入る。
ゆったりした椅子で、少しだけリッチにランチ。ブランチコースは、ポタージュ、野菜サラダ、牛肉の赤ワイン煮込み 、ライス、コーヒー付きで2,500円。それにプレミアムモルツ生700円。
午後からは、併設の公募展のうち知人の作品が展示されている「日本水彩展」と写真展「視点」を観覧する。
●第103回「日本水彩展」
公募展示室では、日本水彩画会主催の「日本水彩展」が、6月2日(火)~9日(火)の会期で開催している。観覧料700円(大英博物館展チケット持参の場合は300円)。
この公募展は、受賞者が100人くらい、入選者が1,000人以上いて、展示点数が全部で1,222点もある。ロビー階の第1~第4公募展示室を貸し切っていて、観て回るだけで相当な時間がかかりそう。
日本水彩画会創立の考え方を尊重し、会として特定の方向性は定めず、作品は写実の伝統的なものから、抽象を含む現代的なものまで幅広い作風を受け入れているそうだ。
作品の大きさは、50号とか80号。こういった大規模な水彩画の展示会は初めて観覧したが、水彩画とは思えない油絵風の作品、抽象画や前衛的、アニメ的な表現など、自分が持っていた水彩画のイメージは、この展示を観ていっぺんに吹き飛んでしまった。
日本水彩画会は、1913年(大正2年)に当時の有力な水彩画家60余名が結集して、水彩画専門の会として設立された。我国では最も長い歴史をもつ絵画団体の一つ。
●2015年 第40回『視点』
観覧料、500円。公募作品の入賞・入選の205作品が展示されている。
写真展「視点」のチケットとパンフレットに掲載されている写真。
5枚~8枚の組み写真、モノクロの写真が多い。絵画的な写真、芸術的な写真というよりも、報道写真、社会派写真といった感じの写真が多い。
この写真展の主催団体である「日本リアリズム写真集団」(JRP)は、1963年に結成、プロ、アマ問わず全国に800人以上の会員がいるという。写真を学び、撮り、発表するという旺盛な写真活動を展開、著名な写真家も数多く参加しているそうだ。付属の写真学校「現代写真研究所」を開設している。
なお、日本を代表する写真家である土門拳と木村伊平は、「リアリズム写真」においては双璧を成すが、1966年には「日本リアリズム写真集団」の顧問に就任している。
★ ★ ★
大英博物館は、世界初の国立博物館として1753年に創設、現在も世界最大の博物館のひとつ。所蔵品のほんの1%程度の常設展示だけでも、全部を1日で見ることは不可能だという。収蔵品の多くは、個人収集家の寄贈によるもの。入場料は無料で、施設維持費は寄付やグッズ販売から得られているという。
収蔵品には大英帝国時代の植民地から持ち去ったものも多く、しばしば返還問題も起こっている。その反面、大英博物館に集められたことで、歴史研究が進展したり、文化財の散逸を防いでいるという側面も否定できない。
2012年7月のNHKスペシャル『知られざる大英博物館』、第2集「古代ギリシア」でも放映されていたが、古代ギリシアの遺物は、かつては鮮やかな色彩が施されていた。経年により色落ちしていたが、1930年頃に行われた博物館スポンサーの初代デュヴィーン男爵(美術収集家・画商)の指示で、色が剥ぎ取られたそうだ。当時、ギリシャ文明がヨーロッパ人のあこがれとなり、白が純潔の象徴として流行、博物館に訪れる大衆受けを狙うためだったという。この「古代ギリシャ」のNHKテレビを見て、大英博物館のスキャンダルを知り、衝撃を受けた。
後世になって、自分たちの都合良く歴史の真実を捻じ曲げようとする勢力は、いつの時代もどの国のも存在する。こういった歴史の変更は、決して許されることではなく、今後とも注目していきたい。
大英博物館展の膨大な所蔵品のほんの一部を観覧して、数百万年の人類の歴史を2時間弱の駆け足で振り返えった。そして、あらためてその時代と地域の生活や社会、信仰や芸術、政治や経済の一端を垣間見ることができた。
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