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2015年1月21日 (水)

捏造の科学者

 単行本『捏造の科学者~STAP細胞事件』(須田桃子著、文芸春秋)が、売れている。2015年1月7日発売の第1刷分は、一週間でほぼ完売したそうだ。

 

 1月9日午後の日本テレビの情報番組「ミヤネ屋」で、著者である毎日新聞科学環境部の須田桃子記者が出演していた。司会の宮根氏とのやりとりの最後で、驚く話があった。学術論文では、投稿者側が査読(学術誌に掲載前の論文を専門家が評価・検証すること)して欲しくない人物を指定できるそうだ。このSTAP細胞論文では、iPS細胞の山中伸弥教授が査読から排除されていたという。

 この番組を視聴して気になっていたが、17日の朝日新聞2面にこの書籍が全5段の広告で掲載され、読んでみたくなる。第2刷は、15日から配本が開始された。

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 1月18日、ネット販売のアマゾンでは、在庫切れ。駅前の本屋にかろうじて1冊だけ残っていたので購入。21日読了。

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 昨年1月、理化学研究所(理研)の小保方晴子氏は、チャールズ・バカンティ教授(ハーバード大学)や若山照彦教授(山梨大学)と共同でSTAP細胞を発見したとして、論文2本を科学誌「ネイチャー」に発表した。記者会見では、生物学の常識をくつがえす大発見とされ、若い女性研究者・小保方氏が脚光を浴び、世間から大いに注目された。

 STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞、Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency cells)は、動物の体細胞を弱酸性溶液に浸すなどの外的刺激を与えて、体のどんな部分にもなれる能力を獲得させたとされる細胞。この新たな細胞は、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)を上回る「第3の万能細胞」だという。短期間に大量に作製できるなど、将来の再生医療への応用が期待されている。

 しかし、インターネットで論文の不正疑惑が多数指摘され、若山教授は論文撤回を呼びかけた。理研もSTAP細胞論文に捏造や改ざんなどの不正があったことを認めたが、論文共著者で理研の発生・再生科学総合研究センター(CDB)副センター長・笹井芳樹氏は、釈明を繰り返し小保方氏をかばっていた。

 STAP細胞論文について理研は不正を認定し検証実験を開始したが、4月の記者会見で小保方氏は、なおもSTAP細胞は存在すると反論。しかし7月、ついにSTAP細胞論文は撤回された。様々な責任が追及される中、8月には笹井副センター長は首吊り自殺してしまう。笹井氏の死とCDB解体の話、過去の海外捏造事件の事例で本書は終わる。

 

 12月、理研の調査委員会が記者会見で、小保方氏も参加した検証実験の結果では、STAP細胞は再現できなかったことが発表された。そして、故意にES細胞を混入した疑いが否定出来ないとした。誰がどのように混入したかは解明されず、理研は調査を終了。小保方氏は理研を退職した。(11月中旬に脱稿している為、12月の内容は本書に盛り込まれていない。)

 このSTAP細胞事件について、関係者とのメールや電話、面会など精力的に取材を進めた須田記者は、研究や論文のずさんさや、理研の対応のまずさを指摘し、STAP細胞作成においてES細胞が混入した可能性は、当初から十分に予想できたとしている。

 

 ★ ★ ★

 世界中を騒がせたこのSTAP細胞事件は、「世界三大研究不正事件」の一つとなってしまった。一つは米ベル研究所の若手研究者の高温超電導事件、もう一つは、ソウル大学教授のクーロン胚ES細胞事件で、10年ほど前のことでまだ記憶に新しい。

 著者の須田氏(写真)は、早稲田大学大学院卒業で、小保方氏の先輩になる。リケジョ(理科系女子)で物理専攻だったが、生命科学の専門知識の深さに驚く。こうでなければ、新聞社の科学記者としての取材は務まらないのだろう。

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 STAP細胞研究を主宰した小保方晴子氏の評価は、聡明で研究熱心な努力家、初々しいリケジョだが、おしゃれ好きの普通の女の子だという。パッシングを受け始めると、一人責任を押し付けられた、かわいそうな女性研究者のイメージ。

 
 一言でいえば彼女は「ユニークな研究者」だろうが、それにしても単純ミスや倫理観のなさはあまりにもひどい。実験ノートの不備やアバウトさ、写真やデータの単純な取り違え、他文献の無断コピー等、同じような不正は学生時代の博士論文にも見られる。理科系の人間とは、到底思えない。

 研究者としての基礎的なトレーニングを受ける機会がなかったという弁解もあるが、STAP論文発表当時の小保方氏は30歳で、理研の研究ユニットリーダー。国立大学でいうと准教授にあたるそうだ。著者は、ある科学者の取材で「小保方さんは相当、何でもやってしまう人ですよ」との一言にドキリして、いつまでも頭に残ったという。故意だとすればなおさらだが、未熟さや過失だとしても、研究者としての資質が欠けているのではないだろうか。こんな人がよくぞ組織の中で評価され、周囲の人はその資質の問題に気がつかなかったのだろうか。共同研究者の若山教授、笹井氏、丹羽氏らは、どうして彼女の不正を見抜けなかったのだろうか、疑問が残る。

 STAP細胞事件は、研究の秘密保持を優先し、外部からの批判や評価を遮断した閉鎖的プロジェクトであった。朝日新聞の福島原発吉田調書の誤報問題のように、よくある極秘プロジェクトの弊害で、それと状況がよく似ている。

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