「永遠の0」-その2
ブログ記事-映画「永遠の0」の続き。
百田直樹(ひゃくたなおき)氏の小説と映画『永遠の0』は、なぜ大ヒットしているのか。映画を観る2日前の2月17日講談社文庫を購入し、25日に読み終えた。
放送作家の百田氏は、2006年に『永遠の0』(太田出版)を発表、小説家としてデビュー。2009年に講談社から文庫本化。2013年12月東宝により映画公開。現在410万部を突破。また小説『海賊とよばれた男』では、2013年本屋大賞を受賞している。
小説は、航空戦史と空戦が、詳しく描かれている。軍上層部に対して、兵の命を軽んじ、作戦や判断を誤り、責任は誰もとらない官僚主義を批判。マスコミについても、戦前・戦中は愛国心を煽り、戦後は手のひらを反して反日、愛国心の否定、戦死者を悪者扱いにする報道も批判している。
宮部久蔵のように戦いを避け、「生きて帰りたい」と言うパイロットは、実際いたのだろうか。その彼がなぜ特攻に志願したのか、その理由は読者に委ねている。十一章の特攻出動、最終十二章の戦後の松乃の生活で、どんでん返しに思わず引き込まれていく。
「特攻は自爆テロと同じ」と言う新聞記者に戦友が反論する。映画では健太郎が合コンで友人と言い合う場面に置き換わっている。また別の戦友が、戦後ヤクザとなって登場する。そのヤクザは原作にもあるが、物語が軽い感じになってしまって、がっかりする。映画で、宮部が松乃との最後の別れのシーンや、零戦に乗った幻の宮部が飛んで来て健太郎の頭上で敬礼するエンディングは、小説にはないが心を打つ。
映画では零戦や空母、戦闘シーンがリアルに表現され、ミーハー心が刺激されたが、小説では私の少年時代に吸収した戦史が、詳しく展開されていくので興味深かった。
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安倍晋三首相の「お友だち」が多数送り込まれたNHK経営委員会は、NHK会長に元日本ユニシス社長の籾井勝人(もみいかつと)氏を決めた。氏は今年1月25日の会長就任会見で、慰安婦問題や秘密保護法をめぐる発言、理事の辞表集めなど言動が問題となり、国会でも追及。その後もどこが悪いのかと居直っている。即刻辞任すべきだ。
経営委員で埼玉大名誉教授・長谷川三千子氏は、20年前に拳銃自殺した新右翼活動家・野村秋介氏を追悼文で礼賛。これは、言論機関へのテロを称賛するもので、経営委員には不適格だ。氏は、安倍首相の応援団を自認、夫婦別姓や男女共同参画に反対、象徴天皇制を否定し絶対天皇制を唱えている。
同じく経営委員の百田尚樹氏は今月3日、東京都知事選候補の田母神氏の応援演説に駆けつけ、他候補者たちを「人間のクズ」という暴言をした。また南京大虐殺の存在を否定、どの国でも残虐行為はあったなどと明言。国会や市民団体から、公共放送の不偏不党の立場に抵触との批判が出ている。氏は、安倍首相に非常に近いとされる中の一人で、憲法改正、日本軍創設を主張している。
これまでNHKの放送内容が偏向しているとして、NHK経営委員や会長選任に当たっては安倍政権の意向が強く働いている。このような暴言を平気するような人達が会長、経営委員を務めるとは、NHKの政治的中立、公平性は失われてしまう。
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この作品は、戦争を美化、特攻を賛美しているようには見えないが、少なくとも反戦ではない。戦争を題材に、零戦の戦闘シーンや特攻の悲劇、そして多くの人に感動を与えるエンターテイメントと言える。直木賞作家の石田衣良(いしだいら)氏は、『永遠の0』や『海賊とよばれた男』などについて、ソフトに愛国心を強める「右傾エンタメ」と呼んでいる。
戦場で倒れた人たちへの哀悼・尊敬の意を表するのは当然だが、戦争の悲劇と感動の先には英霊への感謝、A級戦犯の名誉回復、侵略戦争自体の否定といった伏線がある。作者の思想的背景を考えると、作品のヒットは現安倍内閣とは無関係ではない。こういった作品が底流にあって、日本のリーダーの右傾化、国家主義が、日本人の心と日本の社会に静かに浸透し始めているのではないかと、危惧せざるを得ない。
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