箭弓稲荷神社-その3
2013年12月7日(土)、箭弓稲荷神社(埼玉県東松山市)の社殿彫刻見学会。
箭弓稲荷神社の創建は、和銅5年(712年)と伝えられ、昨年でご鎮座1,300年を迎えた。現在、「ものつくり大学」(埼玉県行田市)の技能工芸学部横山研究室(横山晋一准教授)の研究調査の為、社殿に足場が掛けられている。
この機会を利用して、市の埋蔵文化センターが社殿彫刻特別見学会を開催した。
横山准教授から当社の建物についての解説の後、足場に登ってふだんは間近で見られない高さにある彫刻を、観光ボランティアガイドの説明を聞きながら目の当りにする。
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江戸中期の歌川国貞の浮世絵によると、当時の箭弓稲荷神社は、茅葺(かやぶき)の入母屋造りであったらしい。現在の権現造り社殿は、江戸文政年間(1818年~)の早い時期に本格的な建築が始まったと推測されるが、横山研究室の調査によると、工事は第一期と第二期に分割されたそうだ。
第一期では、きらびやかな彫刻を装ったため資金が底を尽き、本殿・幣殿までで工事を一時休止している。そのため第二期工事の拝殿には、資金集めに苦労し、一部を除いて幾分質素な造りになったという。結局天保14年(1843年)に完成、着工から四半世紀かかっている。
江戸中期の吉宗の倹約令などにより、江戸後期の彫刻は極彩色でなく、素木(しらき)造りとなっている。しかし当社の彫刻は、モチーフを色で表現できないため、その分彫りが深くシャープになっているという。ここの工事は、武州川原明戸村(現在の熊谷市)の飯田家が携わった。国宝で極彩色彫刻で有名な妻沼聖天山には、彼らの師匠がかかわっており、当社の彫刻が素晴らしいのは、師匠を超える建物を作るという意気込みがあったのだろうと、横山准教授は言う。
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上から、鳳凰、龍、獏(ばく)、獅子の頭部。
これは龍ではなく、「蜃(しん)」という霊獣。口から水とか火を吐いていると思われるが、「気」を吐いている。
蜃気楼(しんきろう)を作り出すといわれる伝説の生物は、巨大なハマグリとする説と、龍の一種とする説がある。蜃気楼は、「蜃」が「気」を吐いて「楼」閣が形造られると考えられていた。
龍の一種とする説は、龍に似ていて、角、ひげやたてがみを持ち、下半身は逆鱗(げきりん、逆さに生えるうろこ)であるとされている。蜃の文字も、辰(たつ)と虫(むし)と書くので、その意味に沿っている。手水舎(てみずや)に龍の飾りがあって、口から水が流れているのをよく見る。龍は雲を呼び雨を降らせるが、蜃は気を吐く。
孔雀と牡丹。孔雀は日本にいなかった。日本書紀には、新羅から推古天皇に孔雀が送られたという記事があるそうだ。江戸時代になると中国から多く輸入され、見世物になったり、絵に描かれることも多い。
鳳凰の頭。左は口を開いている「阿吽(あうん)」の「阿」、右は口を閉じている「吽(うん)」の形をしている。目の白いところは、糊粉を塗ってあるようだ。
本殿の縁を支える甲羅を背負った「海馬」。水辺を走る霊獣だが、仔馬のような可愛い姿をしている。
海馬は、馬やサイのような蹄(ひづめ)でなく、牛や鹿のように2又に分かれている。
下の写真は、頭が下を向いているが、「水犀(すいさい)」らしい。海馬と同じような甲羅を持ち、角があったり竜のような頭をしている。
本殿の欄間にある龍で、後述する向拝の「目貫の龍」に似ている。
「烏鷺(うろ)」(カラスとサギ)は囲碁の事で、仙人同士が対戦している。
中央には対戦を見ているきこりがいる。 右手に持っている斧の柄が、あまりに長い時間見ていたので、腐ってしまったという話は、ガイドの説明を聞いて初めて知る。
向拝(こうはい)の鳳凰。向拝は、拝殿の屋根が中央前方に張り出した庇(ひさし)の部分で、参詣者が礼拝する所。
向拝の「三条小鍛」。三条小鍛についての詳細は、箭弓神社の関連ブログに記載した。
向拝の龍。この龍は、「目貫の龍」という。目貫とは、大切、重要、中心とか最も目に付く箇所という意味がある。
向拝(こうはい)の下の湾曲した梁の「海老虹梁(えびこうりょう)」が気になる。曲がり方が大きいが、研究室の学生に聞くと一本の木でできているそうだ。
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今回は、1年前の見学では見えなかった部分を間近に観察でき、また詳しい解説も聞けで有意義だった。しかし予定の1時間は、アッという間に終わってしまった。狭い足場に15人くらいの見学者がひしめき、なかなかじっくりとまた良い角度から、見学、撮影できなかったのが残念。
妻沼聖天山、箭弓神社についての関連ブログ記事も以下にあるので、参照されたい。
「妻沼聖天山」
http://otsukare-sama.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-8470.html
「箭弓稲荷神社」
http://otsukare-sama.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/post-fd05.html
「箭弓稲荷神社-その2」
http://otsukare-sama.cocolog-nifty.com/blog/2013/01/2-a5ef.html
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