長崎から江戸へ旅した象-その4
ブログ記事 「長崎から江戸へ旅した象-その3」について、追記する。
http://otsukare-sama.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/3-43a4.html
杉本苑子の小説『ああ三百七十里』の中で主人公の象は、「天皇と対面する京都御所では、脱糞して護送役の役人たちをあわてさせた。役人はその上に羽織をかけ、事なきを得た。」といった内容がある。
この話は石坂昌三著の『象の旅-長崎から江戸へ』の中に出て来ないと書いた。その後読み返したら、第4章「東海道を象が行く」の(7)節「東海道のど真ん中」で、袋井宿辺りを歩いているシーンで、2行ほど触れてあった。
原文から以下に引用する。
”象が通りかかると百姓たちは手を休め、腰を伸ばして見送った。沿道では赤ん坊をおぶった子供たちが好奇の目を輝かせていた。
象はこうした働く百姓に、道々贈り物をしていた。両手に納まらなくらい大きな糞である。大食漢の象は所構わず大量の糞をする。
実は、京都御所に参内したときも、象が糞をし、「畏れ多いこと」と福井が来ていた羽織をさっと脱いで、糞に懸けて隠したのであった。
一個分が牛や馬の糞の三倍もある象の糞は、百姓には肥料として有難かった。象が通過すると子供たちが奪い合い、道は掃除しなくてもたちまちきれいになった。”
石坂昌三は、この京都御所の脱糞の話をどの文献から引用したのだろうか。
★ ★ ★
中野村から将軍の象が飼われていた浜御殿(現在の浜離宮)に、竹笹などの餌を運んでいた百姓の源助は、帰りに象の糞を持ち帰り、肥料として近所の百姓に売っていたそうだ。そのうちに源助は、当時流行っていた麻疹(はしか)や疱瘡(ほうそう、天然痘)に効く薬として売って儲けたという。あながちウソではあるまい。
糞は、古来から漢方薬として用いられてきた。戦国時代には、馬糞に薬効があると信じられ、傷口に塗ったり、直接食べるか水でといて飲んだりしたらしい。白牛の糞が麻疹に効くともいわれていたこともあり、霊獣の象の糞ならもっと効くだろうとのことであった。
なお一般的に、肉食獣に比べると、草食獣の糞の臭いは少ないらしい。インドやアフリカなどでは、牛や家畜の糞を医薬品以外に、いろいろな生活用品として利用している国もある。
★ ★ ★
最近ネットで、享保時代に将軍吉宗に献上したゾウの旅について、挿絵とともに児童向けに書いた本を見つけた。
小林清之介(著)『ゾウの大旅行』 小峰書店 1970 「動物ノンフィクション」シリーズ
小林清之介は、動物文学者、俳人で、児童向けの昆虫の本が多い。この本は、すでに絶版になっており、中古でも入手困難らしい。40年以上も前に、このような児童向けの本が出版されていたことに驚く。
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