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2012年7月 9日 (月)

珍獣?霊獣?象が来た!-その2

 2012年6月10日まで開催されていた長崎歴史文化博物館の『珍獣?霊獣?象が来た!』展覧会では、長い歴史の中で日本人が象とどう関わりを持ち、象に対していかなるイメージを持ったのかをテーマに、多くの作品が展示されていた。
 あらためて、『珍獣?霊獣?象が来た!』の展示図録を見る。

 

 普賢菩薩を背に乗せる霊獣としての白象の姿は、現代でもよく見かけることがある。しかし鼻の特徴はあるものの、また牙が6本あったり、顔つきは獅子に似ている。菩薩は、まるで子牛か子馬に乗っているようで、実際の象の大きさを実感することはできない。
 下の写真は、京都・相国寺蔵の「普賢菩薩像」で、展示品にはない。

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 涅槃図の中にも、釈迦の死に際に嘆く悲しむ菩薩、弟子たちや動物に交じって白象が描かれている。下の写真は、展示品にはないが、長谷川等伯の「巨大涅槃図」。左下に白象が他の動物と一緒に座り込んでいる。象を含め動物たちの様子は何やら漫画的だ。
 現在でも、お釈迦さまの命日2月15日の「涅槃会(ねはんえ)」には、仏教寺院では大きな「涅槃図」を本堂に掲げ、人々がお参りしている様子を目にする。また釈迦の誕生日4月8日の「花まつり」では、子どもたちにとっては甘茶をいただく日で、白象を引く稚児行列を出す寺も多いという。

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 儒教にかかわりの深い中国の孝行話24話を集めた「二十四孝」が、日本にも伝わった。初めて知ったことだが、その第1話に孝行息子を助けて畑を耕す白象が登場する。
 江戸幕府が儒教を広める文教政策もあり、「二十四孝」の版本や浮世絵などが大いに流行したそうだ。社殿の欄間彫刻のモチーフとしても、よく知られている。
 普賢菩薩と涅槃図が代表的な象の仏画だが、二十四孝の象も当時の庶民はよく目にしたに違いない。下の写真は、江戸時代の歌川国芳の浮世絵で、本展覧会にも展示されていた。象はかなりリアルである。

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 展示図録のこの絵の解説には、「孝行を助けるその尊い姿の根幹には、・・・ 霊獣という前提があったはず」と書かれている。

 

 根付(ねつけ)は、煙草入れ、矢立て、印籠や袋物などを、紐で帯から吊るし持ち歩くときに用いた留め具で、材質は堅い木や象牙などが多かった。オランダ船を描いた絵に、象牙が積まれていたり、象牙を荷降ろしする様子が描かれているものがある。江戸時代には象牙を輸入し、象牙工芸が発展した。特に根付や印籠など、優れた工芸品が多い。

 
 明治以降、象牙の輸入量が増えると、三味線のバチや箏の爪、糸巻の高級品に使用された。更に大正・昭和に入ると、喫煙パイプが主な象牙製工芸品となった。日本は最大の象牙輸入国であったが、ワシントン条約により、1989年より象牙の貿易は禁止されている。
 展示図録を見ると、江戸時代から明治にかけての多くの根付や象牙工芸品が展示されている。また象を描いた道具箱や、象を描いたり、かたどった陶磁器など美術品もある。   

 象が霊獣とするなら、霊獣の象牙に対してはどのようなイメージを持って加工や使用していたのだろうか、不思議である。
 

 

 象は、室町時代までは霊獣として仏画に描かれている。安土桃山時代から江戸時代には、実際の象が入ってきたりして、だんだんと絵もリアリティを増し、霊獣としてだけでなく、珍しい異国のけもの、つまり珍獣でもあった。日本人の心の中には、霊獣と珍獣の二つが併存していたのだろうか。

 そして展示図録には、更に象のイメージは拡散して、日本人の心には霊獣・珍獣を越えたユーモラスな象として、伊藤若冲や長沢芦雪などの絵師が描いた新たな作品が現れたとしてしている。下の写真は展示図録の表紙で、上段に長沢芦雪の「白象唐子図屏風」の一部、下段に伊藤若冲の「象と鯨図屏風」の一部が使われている。

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 日本人の象に対するイメージは、霊獣か珍獣とかの一元的なものでなく、多元的なものになっていったようだ。何にやら象のイメージは、日本人の持つ多神教の宗教観や、東洋哲学の多元論のような広がりをもつ存在に思えてくる。

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